MENUへ戻る

TS先生
Akeyは小3〜小4までお世話になりました。
当時TS先生は、大きく見えた。Akeyの身長が低かったせいもあるが、何よりも先生を大きく見せていたのは先生の教育に対する熱意だったのであろうと思う。(実際の身長は160cmくらいであったことが、高校生の頃、小学校の近くで偶然お会いしたときにわかったのである。)

印象深かったのは,先生の自己紹介である。「TSです、信じてください!」 今風にいうと親父ギャグ炸裂といったところだろう。実際Akeyはこの先生が大好きで、5年生も受け持ってほしいとさえ思っていた。

また、体育の授業をビデオカメラで撮影して、視聴覚室に生徒を集めてサッカーの攻防についての分析をしてくれたのも革新的だった。(1972年当時、ビデオテープは1インチのオープンリールで、このような高価な機材が設置されている市立の小学校はきっと少なかったに違いない。)

一番の思いではやはり、スカートめくりの罰として無期限階段掃除を命じられたことである。何回注意されてもその行為を止めなかったAkeyに対して、先生としては最終手段としてその罰則を思いついたのだろう。

ただ、どのようにしてAkeyがその罰則から開放されたかという経緯についての真実を、先生にお話したらきっとがっかりすることは容易に推測できる。というのは、実際にはこのような背景があるからだ。

意地っ張りのAkeyは、来る日も来る日も階段の掃除を一人でやりつづけていた。もちろん、先生はある時点で「もうしません、誓います。」みたいな詫びを言いに来れば、いつでもで罰ゲームは終わらせる心づもりであったと推測されるが、Akeyがいつまでもアクションを起こさないので、そのような罰を与えていたことすらも忘れていらっしゃったのでは無いかと思われる。

しかし、Akeyは一つのことに集中すると、何か面白い方法、楽なやり方は無いか?というような探求心が頭を擡げるのだ。実際、つまらない階段掃除なのだが、階段の両端に溜まった、埃や土、砂は先の曲がったホウキでは完璧に除去することはできないのだ。

ある日のこと、ホウキから幅1cmくらいのワラ束が抜け落ちているのを発見したAkeyは、そのワラ束で階段の隅を掃いてみた。すると、これまで溜まっていた埃や土がきれいに掃き取れるではないか!このやり方だと、通常のホウキで10回のストロークが必要なところを、2〜3回のストロークで終わらせることが出来る。

言うまでも無くAkeyはこの方式を採用し、他人より早く掃除を終わらせ、さっさと帰ることができるようになったのである。

そんなある日、(罰ゲームが始まって2ヶ月目くらいのこと)、いつものように一人で階段の掃除をしていると、隣のクラス担任のS先生が通りすがりにAkeyに声を掛けた。「あなたは何故一人で掃除をしているの?」
この質問に対しては罰ゲームの背景も含め、詳細なな答えを返すべきであったが、面倒くさい気持ちが手伝い、「僕がやらなきゃ誰もやらないんです。」と答えてしまった。

S先生は、そのときは「そうなの、頑張ってね」と暖かい声を掛けたあと、職員室を戻られた。

驚いたのは、次の日だ。

ホームルームが始まると、TS先生は、「今日は先生、とってもうれしいことがありました。」と始めた。「隣の坂本先生からつぎのようなお話を聞きました。」話は続く。「誰もやらない階段掃除を一人でしかも、両端の隅の方まで工夫して掃除している人を見かけました。また普通なら数人でやる階段掃除を一人でやっているので、どうして一人でやっているのかと聞くと、「僕しかやる人がいないから」とのことでした。私はその子の体から光が出ているように思えました。」

なんとも大きな誤解である。

いずれにせよそお誤解に端を発する美談がAkeyを階段掃除の罰から開放してくれたのである。もちろんTS先生は満面の笑みで、「やっぱり解ってくれたんだな。先生は信じていたよ。」とでも言わんばかりであった。

ただ、この偽美談のあと、教室のホウキの先の部分が急速にやせ細っていたことは言うまでも無いだろう。
TS先生、
ゴメンナサイ!